注目のコレクション

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  • 《Untitled》〈発語の周縁〉より
    原美樹子 
    2004年 
    発色現像方式印画

    原美樹子(1967-)はクラシックカメラの「イコンタ」を用いて、目の前の光景をスナップショットの手法で捉えています。作家によれば、このカメラを愛用する理由は、撮影者の存在を主張しないこと、音が静かであることだと言います。ピントは目測なので適当に合わせ、ファインダーも曖昧なのでのぞかないというスタイルによって、作家は通りすがりの人物や出会った物事を静かにすくいあげます。カメラを意識することなく、たたずみ移動する人々や、小さな身の回りの出来事を捉えた写真は、作家が関心を寄せる「感情、言葉がわき上がってくる一歩手前」の光景の連なりであるとも言えます。何事も起こらない無為な時間の流れの中に、何か特別な輝きが感じられる原の写真には、作家独特の、対象との間の微妙なスタンス、世界との関わり方が反映しています。

  • 〈うたたね〉より
    川内倫子
    2001 年
    発色現像方式印画

    このシリーズは、川内倫子 (1972-)のデビュー作で自身の身辺世界で起こる万物の移りゆく様をとらえてます。タイトルの「うたたね」は半分眠り、半分起きている状態、意識と無意識の中間状態を指し、作家の作品世界を端的に表しています。川内倫子の作品は、光のきらめき、明るく透明感のある色彩を特徴としており、複数のイメージを連ねていくことで、詩的なイメージの広がりを生み出します。スクエアのフォーマットで身の回りの光景を鮮やかに切り取るそのスタイルは、多くのフォロワーを生み出しました。〈ある箱のなか〉は、撮影したフィルムのコンタクトシート20枚をひとつの画面に再構成した作品。意図的に構成された写真集の場合と異なり、混然としたイメージは作家の無意識を反映しています。

  • 《Marabu #2》
    野口里佳
    2005年
    発色現像方式印画

    野口里佳(1971-)は自身の言葉で言う「新しい地球の見方」や「宇宙から降り立った人間が最初に見た風景」、あるいは「月面」を求めて、強く興味をもった被写体や場所を探求します。〈潜る人〉や〈フジヤマ〉といったシリーズでは、水中や高山を行く人物たちのドキュメンタリーが、作家の想像力の働きによって日常とは別の次元のビジョンに変換されます。出品作品は「マラブ」(アフリカハゲコウ)というコウノトリの一種を被写体としています。ほとんど飛ばない鳥という謎めいた存在に触発され、その姿をピンホールカメラで撮影したこのシリーズは、人間の尺度とは異なる時間の流れを感じさせるとともに、早さや便利さ、変化を追い求める時代の「進歩」に対して、針穴と暗箱で光を集める行為の遅さと不便さ、そしてデジタル写真に対するアナログ・プロセスをも象徴しています。

  • 《201611明るい部屋》〈とぼとぼと〉より
    浜田涼
    2016年
    発色現像方式印画

    一般的に「ピンボケ写真」といえば、意図的にレンズ効果を狙ったものや、意図しない失敗の場合がありますが、ものの形状が分かるものが普通です。一方この作品は、写っているものの姿形がまったく判然とせず、記録としての実用性はまったくありません。それぞれのイメージは風景のようでもあり、室内のようでもあり、また近景のようでも遠景のようでもあり、見る人は写っているものを想像するしかありません。それぞれが記憶の中にある光景を思い浮かべることもできるでしょう。浜田涼(1966-)は完全にピントの外れた写真を作品表現として追求する美術作家です。作品は絵画のようにも見えますが、カメラを用いて撮影されたイメージであり、光の抽象表現であるとも言えます。

  • 〈サルサ・ガムテープ〉より 
    大森克己
    1997年 
    発色現像方式印画

    〈サルサ・ガムテープ〉は同名のロックバンドをカバーしたドキュメンタリーです。このバンドは1994(平成6)年、神奈川県秦野市にある知的障害者施設「秦野精華園」の人たちによって結成されました。大森克己(1963-)は96(平成8)年からバンドの練習やライブに同行して彼らを撮影し、98(平成10)年に写真集をまとめました。「中心がない。自由なのか不自由なのか?くずれそうでくずれない。Punk。何かをのど元につきつけられるパワー。確かに存在する不思議な一体感」。大森は撮影日記にこう記しています。バンドとの交流から生まれたこのシリーズには、共感的な視線とともに、後ろに退いた視点からその場全体を客観的に捉えるショットも多く含まれ、対象との距離感は複雑に変化していきます。作家はこの作品で既成概念に囚われない写真のあり方や、人との関わり方を模索しています。

  • 《台北市のコミックマーケットに来たコスプレの人々34人を重ねた肖像、台湾、台北》
    〈our face〉より
    北野謙
    2009年
    ゼラチン・シルバー・プリント

    北野謙 (1968-)は、一つの集団のメンバー全員が重なりあった群像写真のシリーズ〈our face〉を1999(平成11)年から手がけています。この作品は北野が世界中の様々な人々に会いに行き、現場で撮影した数十人の肖像を、暗室で一枚の印画紙に重ねて焼き付けることで制作されています。95(平成7)年の阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件以降、こうした大きな「現実」と日常とのつながりが想像できず、「世界」の存在が実感できない体験を経て、北野は98(平成10)年頃にメキシコでディエゴ・リベラの壁画に出会い、「あらゆる他者がひとつのイメージになること」の着想を得ます。自他の区別が溶解し、年齢や表情もあいまいになった「私たちの顔」を通して、作家はたくさんの「他者」と自己とのつながりをイメージするとともに、多数の「世界」の存在を確かめようとしています。

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