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  • Working Man
    小林孝亘
    1999年
    油彩/カンヴァス
    200×2004cm

    小林孝亘が描き出すのは、作家が外界と接する中で「気になった風景」と言う。これまでも、木漏れ日や公園の陽だまり、眠る人、枕や食器といった身のまわりの物をモチーフに多くの絵画を生み出してきた。タイと日本を行き来する生活の中でモチーフを見出し、こっくりした絵肌と切り詰めた構図をもつ絵画作品によって、高い評価を受けてきた作家である。
    画面の内側から光りを放つようなこの作品は、作家がバンコクに初めて長期居住した際に描かれた。それまで多く「光」の様態を描いてきた作家が、「タイでは昼の光は強すぎ、夜の、やわらかく暖かな光に魅了されて」描いたものである。ここでは、夜間、オレンジの光の下に働く工事現場の作業員がモチーフになっている。「Working Man=働く人」は背景をもたずシンプルに抽象化され、左右対称の構図のうちにおさめられることで一種の普遍性を帯び、「人が働く」「住まいを建てる」ということそのものが抽出されている。画面上部から放たれる光源が人物や建物を浮かび上がらせ、あたかも夢の一場面のような幻想性をもつ画面を生み出した。音の出る作業を描きながらも、一種の静けさと余韻が感じられるところも作品の魅力と言えよう。

    小林孝亘
    1960 東京生まれ
    1986 愛知県立芸術大学油画科を卒業
    1995 「水戸アニュアル’95 絵画考−器と物差し」水戸芸術館
    1996  VOCA展’96奨励賞を受賞
    西村画廊にて個展(東京)
    1996-97 文化庁芸術家在外研修員としてバンコクに滞在
    1999  「ペインティング・フォー・ジョイ:1990年代日本の新しい絵画」 国際交流フォーラム、東京 他巡回(-'02)
    2002 以降、バンコクと東京/神奈川の2都市で制作を行う
    2003 「MOTアニュアル2003 おだやかな日々」東京都現代美術館
    2004 「小林孝亘−終わらない夏」目黒区美術館(東京)
    2007 「開館記念<生きる>展 現代作家9人のリアリティ」横須賀美術館
    2010 「絵画の庭-ゼロ年代日本の地平から」 国立国際美術館
    バンコク/神奈川に在住

  • あるく 私の生活基本形 - 深川2006年8月4日〜
    秋山さやか
    2006-07年
    ししゅう糸、もめん糸、毛糸、リボン、帯じめ、ひも、くさり、ボタン、スパンコールなど江東区で見つけたもの・ポリエステルの布 江東区一帯の地図(2006年現在、江戸時代)を投影/約3分

    大学で絵画を学んだ秋山さやかは、自身の歩行の軌跡を刺繍にした作品で知られる作家である。現地に滞在し、そこで過ごした日々の痕跡を、地図をベースに縫い付けてゆくというプロセスにより作品が出来上がっていく。この作品は、「MOTアニュアル2007」の際に当館の近隣に2ヶ月滞在して制作されたもの。実際には、できあがるまでにおよそ半年を有した。一見、白地にカラフルな糸やボタンが縫い付けられたドローイングのようにも見えるが、少しく眺めていると、現代と江戸期の古地図が交互に投影され、この地の歴史と、作家がここで過ごしたある一時期とがゆるやかに重なって見えてくる。地図によって示されるものは、実際は現実を抽象した、いわば一つの虚構の空間であり、そこに、作家の足跡、その過程で手に入れた物−リボンやボタン―が、それも運針というような手仕事によって縫い付けられている。布は刺繍によって引きつれ、また風によって動く一方で、投影される地図は平面を措定している。ここでは、地図というもののもつ虚構性と作家の身体のリアリティとが同居しつつ相互に牽制しあっているようだ。秋山の作品には、地図を布に直接刷ったものを支持体としている作品も多いが、映像を用いることによって、作品の含む意味の層はいっそう厚くなっているといえそうだ。

    秋山さやか
    1971 兵庫県に生まれる
    1999 京都芸術短期大学専攻科卒業
    2000 女子美術大学美術研究科修士課程修了
    2000 「フィリップモリスアートアワード2000」受賞
    2001 「ダイムラー・クライスラーグループ アート・スコープ2001」受賞。ポレン(フランス、モンフランカン)および代官山ヒルサイドフォーラムにて個展。
    2003 「VOCA展2003」 上野の森美術館(東京)
    2004 「六本木クロッシング2004:日本美術の新しい展望」 森美術館(東京)
    2005 「上海Youth ビエンナーレ2005 Vision Express “Vision Express International”」
    Ming Yuan Culture Center (上海・中国)
    2007 「MOTアニュアル2007」東京都現代美術館(東京)
    2008年「Great New Wave: Contemporary Art from Japan」ハミルトン美術館、巡回2010年:グレーター・ビクトリア美術館(カナダ)
    2009 「Stitch by Stitch ―針と糸で描くわたし―」 東京都庭園美術館(東京)
    神奈川県在住

  • 南半球のクリスマス(神戸)
    島袋道浩 (しまぶく みちひろ)
    1994年
    タイプCプリント + テキスト
    70×103cm

    1969 神戸に生まれる
    1990 大阪芸術大学付属大阪美術専門学校卒業
    1992 サンフランシスコ美術大学卒業
    1998 第11回シドニー・ビエンナーレ、シドニー
    2001 個展(神戸アートビレッジセンター/須磨離宮公園)
    2003 第50回ベニス・ビエンナーレ
    2006 第27回サンパウロ・ビエンナーレ
    2008 個展(ワタリウム美術館、東京)
    ベルリン在住

    島袋道浩は、身の回りを取り巻くものたちをテーマに作品を生みだしてきた。ささやかで、ごく普通の暮らし―そこに子どものような問いを投げかけ、アクションを起こす。その小さな企てを写真、ビデオ、文章などの形で記録し、その過程も含めて公開・展示していくのが彼のスタイルだ。例えば彼の出身地である明石のタコに、何かプレゼントをしようと思いたつ。ビデオ作品《そしてタコに東京観光を贈ることにした》は、明石沖で捕獲されたタコと島袋との東京珍道中を記録したものである。タコを連れた島袋と出会う町の人々は、彼の話に好奇心を刺激され、知らない間にこの冒険ファンタジーに取り込まれてしまう。《南半球のクリスマス》では、島袋は暖かい春の日にサンタクロースの仮装をして神戸、須磨の海岸に佇んでみせる。遠くて暑い南半球のクリスマスに思いを馳せる島袋の姿は、どこか滑稽であるが、自分と縁のない他者への想像力を喚起してやまない。このように島袋は常識を超えるアイデアと、独特のユーモアのセンスによって、日常生活に出来た結び目を軽やかに解きほぐし新たな視点を注ぎ込む。だからこそ彼のアートは関わる人のみならず、それを見る人を魅了し、心地よい解放感をもたらす。天性のストーリーテラー島袋の作品を受け流すのも、笑って受容するのも鑑賞者に任されている。しかしそこで生まれた会話、驚きの波紋、無意識に続いていく余韻もまた、島袋が作りだした物語の一部なのである。

  • ホワイト(オス)カー 森
    大岩オスカール
    2000年
    油彩/カンヴァス
    227×444cm

    大岩オスカールは、1965年、日系二世としてブラジルのサンパウロに生まれ、日本での生活(1991-2002年)を経た後、現在ニューヨークを拠点に活動している画家である。身の回りの社会事象や歴史、映画やマンガなどを自在に参照、構成し、巧みな筆捌きをもって大画面の油彩画に取り組んでいる。私的な物語性も含みながらもスケール感のある作品は、グローバリズムを迎えた現代社会の在りさまを映すものとして近年ますます評価を高めており、世界的に発表が相次いでいる。大岩の住居が当館近隣の足立区であったこともあり、当館ではこの時期の作品を多数所蔵している。
     《ホワイト(オス)カー 森》は、作家自宅の周辺に取材して描かれた作品。路地を進む白い車は、タイトルにあるように自身の分身であり、いわば一種のセルフポートレイトと言える。絵の前に立つと、やや歪んだ一点透視法の効果がやわらかに重ねられた筆触とゆるやかに響きあって、絵画の中に誘導されるように感じるだろう。画面の手前と奥とでは描かれている時間が異なっているように見え、空には町を包み込むように枝葉が広がっているが、一方で、この町が水の底にあるかのようにも見える…。いくつもの時間を折り重ねたこの作品は、自分の住む町の魅力的な表情をあますところなく伝えるとともに、内部から光を発するような葉と空の表現が月並みな路地を特別な場所へと変容させる。大学では建築を学んだ大岩の、都市や環境、建物や構図といったものへの関心と、柔らかく速い筆さばき、油彩の質感、そして私的な物語…。作家の特徴が見られる東京時代の代表作と言えよう。

    大岩オスカール
    1965 ブラジル、サンパウロ生まれ
    1985 マクナイマギャラリーにて個展(リオデジャネイロ)
    1989 サンパウロ大学建築学部卒業
    1990 第8回サンパウロ現代美術展で買上げ賞受賞
    1991 第21回サンパウロ・ビエンナーレに参加
    1991 東京に活動の場を移す
    1993 個展「アーバン・セル」、スカイドア・アートプレイス青山(東京)
    1995  VOCA展’95にて奨励賞を受賞
    1995-96 デルフィナ・スタジオ・トラストのアーティストレジデンスにてロンドンに滞在
    1997 個展「Via Crucis」現代美術製作所(東京)
    2000 個展「マスターピース」フジテレビギャラリー(東京)
    2000 「越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟)
    2002 ACCおよびJ.S.グッゲンハイム記念財団の助成を受け、ニューヨークに活動の拠点を移す
    2003 「旅―ここではないどこかを生きるための10のレッスン」東京国立近代美術館
       個展、トーマス・コーン・ギャラリー(サンパウロ)
    2006 「オスカールとガーデニング」アリゾナ州立大学美術館
    2008 「大岩オスカール:夢みる世界」、東京都現代美術館、福島県立美術館、高松市美術館に巡回
    2010 「瀬戸内国際芸術祭」男木島
    ほかパブリックアートプロジェクト多数
    ニューヨーク在住

  • 泥絵・地中の海
    淺井裕介
    2011年
    土、粘土/木製パネル

    1981 東京に生まれる
    1999 神奈川県立上矢部高等学校美術陶芸コース卒業
    2001 個展(西瓜糖、東京)
    2007 個展「根っ子のかくれんぼ」(横浜美術館)
    2008 グループ展「KITA!! Japanese Artists Meet Indonesia アジアへ発信!日本の現代美術」(ジョグジャカルタ・ナショナル・ミュージアム、インドネシア)
    2009 VOCA2009展 大原美術館賞受賞
    2010 「あいちトリエンナーレ2010」長者地区、愛知
       「ウォールアート・フェスティヴァル2010」(ブッダガヤ、インド)、2011、2012とも
    2010 個展「ショッピング」(三菱地所アルティアム、福岡)
    2011 ワークショップ「根っこの森をつくる」(東京都現代美術館)
    2012 個展「八百万の物語」国立芸術センター青森
    熊本県在住

    一見、抽象絵画のようにも思えるこの作品には、大小さまざまな円、矩形、馬蹄形といった幾何学模様が多数描き込まれている。その隙間を縫うようにして伸びていくのは、木の蔓、根っこのように具体的に植物をイメージさせるもの。こうした異なる要素が相互に複雑に絡まり合い、隅々まで密度の高い画面が構築されている。作家がこの絵に《地中の海》というタイトルを付けたように、ここに広がる光景は、おそらく地下に深く広がる世界、つまり普段は見ることができないわれわれの足下にある有機的な土の中の世界なのであろう。
    淺井はこれまでマスキングテープ、ホコリ、木の葉、小麦粉、米粉など身の周りにあるありふれた素材、しかし画材としてはやや風変りなものを用いて、自分の描きたいものを様々な場所に描き続けてきた。本作は作家自身が各地で集めた土等を用いた通称「泥絵」と呼ばれるシリーズの一つで、現代美術館の展示室内で実際に制作したものである。
    下絵を作ることなくその場で直描きする淺井は、であるかからこそ、制作の途中で即興的に一部を水で消したり、別の図柄を上に重ねたり、足し算、引き算、掛け算を続けて絵を完成させる。したがって私たちが見ている絵の表面の奥にも、見えない世界や時間が何層にも織り込まれている。「僕が本当にやりたいことは描き続けること」――絵を描く喜びがストレートに伝わってくる生命力に満ちた画面は、われわれを繰り返し深い《地中の海》へと誘う。

  • 地下に導管のある長方形のセル
    ハリー, ピーター
    1987年
    アクリル、ロール=ア=テックス/カンヴァス
    149×457.5cm

    1953 アメリカ、ニューヨーク州ニューヨークに生まれる
    1978 イェール大学およびニューオリンズ大学で美術史を学ぶ
       最初の個展(ニューオリンズ、コンテンポラリー・アーツ・センター)
    1992 回顧展(マドリッド、レイナ・ソフィア国立美術館他)
    ニューヨーク在住

    横長の画面は、3枚のカンヴァスを組み合わせて作られている。すなわち、黒い長方形、ざらざらした質感の白い長方形、そして下を貫く、黒い線の入った鮮やかな赤色の細長い長方形である。誰の眼にもそれは、幾何学的に構成された、きわめて抽象的な絵画のように見えるだろう。しかしながら画家は、社会学的かつ心理学的な意味内容を盛った、全く具体的な図像としてこの作品を描いたという。「I. これらは、監獄、小室(セル)、壁の絵画である。II. ここでは、観念論的な正方形が監獄となっている。幾何学は、監禁として現れる。III. 小室は、アパート、病院のベッド、学校の机――つまり、産業構造の中に隔離された終点――を連想させる手段である。IV. これらの絵画は、観念論的モダニズムの批判である。『カラー・フィールド』には、刑務所が置かれる。ロスコの靄のかかった空間は、壁に囲い込まれる。V.地下の導管はユニットを結合する。『生命の液体』が流れ入り、流れ出る。VI.『漆喰』のテクスチュアは、モーテルの天井の記憶である。VII. デイ・グロ塗料(蛍光塗料)は、『安っぽい神秘主義』を意味している。それは、発光のなごりである」(ピーター・ハリー『絵画についての覚書』1982年)。ピーター・ハリーは、1980年代の初めに、ロール=ア=テックスや蛍光塗料等の産業的な素材を用いて、幾何学的な抽象絵画を模造した絵画作品を制作するようになった。それは、フーコーらのポスト構造主義思想を参照しながら、近代絵画の絵画的形式として抽象絵画――とりわけその極点としてのミニマリズム絵画――に対する根源的な批判を目指したもので、ネオ・ジオ、あるいはシミュレーショニズムを代表する作品として1980年代後半以降、世界的な注目を集めることになる。

  • A LA MAISON DE M. CIVECAWA
    横尾忠則
    1965年
    シルクスクリーン/紙
    104.0×73.7cm

    1936 兵庫県に生まれる
    1960 日本デザインセンター(NDC)入社
    1966 絵画による最初の個展(東京,南天子画廊)
    1969 「第6回パリ青年ビエンナーレ」版画部門グランプリ受賞
    1972 個展(ニューヨーク近代美術館)
    1974 個展(アムステルダム市立美術館)
    1987 個展「横尾忠則展 ネオロマンバロック」(西武美術館)
       東京在住

    横尾忠別のポスター作品ほど1960年代の雰囲気をつたえてくれる作品はない。当時さかんであった舞踏や演劇、いわゆるアングラといわれたサブ・カルチャーの熱気をよくつたえてくれる。本作晶は土方巽の舞踏公演会のポスターである。舞踏は60年代を象徴する芸術上の動きであったが、その中でも土方の舞踏はその独自の表現から多くの人の注目をあび、その死後に与えた影響も大きいものがあった。題名にあるムッシュー・シブサワは土方と親しかった澁澤龍彦であろう。1964年のオリンピック開催の年に走りはじめた新幹線を上方に紋章のごとく扱い、日常見慣れた鮭缶を下方にあしらい、北斎の波や日章旗のモティーフを使っている。下方の婦人二人はフォンテンブロー派の作品≪ガプリエル・デストレ入浴の図≫からの引用である。日常と芸術、日本と西洋と様々な要素を一つの画面にいれこんで当時の文化のエネルギーを感じさせる作品となっている。画家宣言をした後の1987年にタイトルも≪仙霊のポップコーン≫と改めて、この作品を油彩で描いていて、作者にとっても愛着のある作品と思われる。 (I.K.)

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