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  • 《束の間の幻影》
    駒井哲郎 (1920-1976)
    1951年
    アクアチント/紙
    18x29cm

    版画、特に銅版画の場合はどの技法を使用するかによって、園作品の印象派全く異なったものになる。黒から白への微妙な諧調を使用して作られたこの作品は、黒の背景の中に様々な形態が浮かび上がり浮遊している。目を閉じればこれらの形態は一瞬のうちに消え去るごとく儚いもののようにも見える。腐食の度合いによりその色調を変えることのできるアクアチントの技法は、面としての表現も可能であり、この作品においてはその技法が作者の意図を見事に伝えている。駒井は銅版画を日本に根付かせた功労者の一人であり、多様な技法を駆使して多くの優れた銅版画作品を残した。この初期の作品では、彼の「夢こそ現実であればよい」という夢見がちな面が強く、空中に浮遊する形態も何か玩具のようであり、ノスタルジックな気持ちを誘う。これら一群の夢をテーマとした作品の後、作者はビュランを使用した厳しい線による作品を発表し、一つの転機を迎えるのである。

  • 初年兵哀歌 歩哨
    浜田知明(1917-2018)
    1954年
    エッチング、アクアチント/紙
    23.8x16.3cm

    1917 熊本県に生まれる
    1939 東京美術学校油画科を卒業
    1940 召集、中国大陸へ派遣される
    1953 最初の個展(東京、フォルム画廊)
    1956 「第4回ルガノ国際版画展」入賞
    1979 個展(熊本県立美術館、アルベルティーナ国立美術館)
    1980 個展(神奈川県立近代美術館)
    1993 個展(大英博物館日本ギャラリー)
    2018 熊本県にて死去

    銃口を口にあて、銃の引き金に左足のゆびをあて、まさに死のうとしている、ひとつ星が襟に光る初年兵。美術大学を卒業してすぐに軍隊に召集され中国に送られ、その戦争の遂行目的自体に疑問をいだき、非人間的な軍隊の生活の中で神経をすりへらした作家が死にその救いをもとめたのは当然であった。若い日にモンドリアンとアルプにひかれていたという作者は、白から黒までの階調の中に、単純化すべきところは大胆に省略化し、反面、初年兵のよれよれの服は現実感をもって描き込んでいる。すでに骸骨のように見える初年兵の頬を流れ落ちる一滴の涙は我々に彼の悲しみをひしひしと伝えてくる。この作品が描かれたのが1954年であり作者の実際の戦争体験から10年以上たっているという事実を考える時、作品とするにはそれだけの年月が必要であったのであろうという感慨を我々もいだくのである。

  • 無題
    小島信明(1935-)
    無題
    1966
    ラッカー/ポリエステル樹脂
    h.173cm

    白いYシャツを着て、ブルーのズボンをはいた男が立っている。その男は、星条旗によく似た赤と白の縞模様の布を頭からかぶっている。赤、白、青の組み合わせは実に鮮やかで、遠くからも人目を引きつける。だが、そのような単純明快な見かけとは裏腹に、この作品では、たった一つの肝心なことがわれわれには隠されている。男の顔が見えないのだ。布の下で男がどのような顔をしているのか、何を考えているのかがわからない。そこから生まれるもどかしさ。そのことが、かえってわれわれの好奇心をかき立てる。作者は1962年の「第14回読売アンデパンダン展」で自分自身を出品作品の一部とするハプニングを行い、注目を集めたが、それは紅白の幕の前に置かれたドラム缶の中で一日中窮屈な姿で立ち尽くすというものであった。それは人間が彫刻になることであったが、この作品では彫刻が人間となり、ハプニングを行っている。見かけは華やかな布におおわれた男はこう問いかけているようだ。表面的な刺激に興奮させられる現代社会の中で、われわれは実は何かに規制され、自由で豊かな「内面」や「個性」を喪失していないだろうかと。

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