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  • 《束の間の幻影》
    駒井哲郎 (1920-1976)
    1951年
    アクアチント/紙
    18x29cm

    版画、特に銅版画の場合はどの技法を使用するかによって、園作品の印象派全く異なったものになる。黒から白への微妙な諧調を使用して作られたこの作品は、黒の背景の中に様々な形態が浮かび上がり浮遊している。目を閉じればこれらの形態は一瞬のうちに消え去るごとく儚いもののようにも見える。腐食の度合いによりその色調を変えることのできるアクアチントの技法は、面としての表現も可能であり、この作品においてはその技法が作者の意図を見事に伝えている。駒井は銅版画を日本に根付かせた功労者の一人であり、多様な技法を駆使して多くの優れた銅版画作品を残した。この初期の作品では、彼の「夢こそ現実であればよい」という夢見がちな面が強く、空中に浮遊する形態も何か玩具のようであり、ノスタルジックな気持ちを誘う。これら一群の夢をテーマとした作品の後、作者はビュランを使用した厳しい線による作品を発表し、一つの転機を迎えるのである。

  • 《西瓜》
    浜口陽三(1909-)
    1981年
    メゾチント/紙
    23.6x54.6cm

    浜口はカラーメゾチントの作品で有名である。西欧に伝わるメゾチントの技法は一次廃れたが、20世紀になって長谷川潔によって復活した。その技法をさらに進めカラーメゾチントを捜索したのは浜口であった。彼の作品の多くはぶどう、胡桃、白菜、西瓜、アスパラガスなどを対象とした静物画である。広い余白を残した単純な構図の中に、園対象の量感を余すことなく伝えるその表現は浜口の技法ならではのものである。黒の微妙な色調を生かしたモノクロームの作品にも秀作は多いが、カラーの作品はその技法と独自の色使いから他に例を見ないものである。本作品の場合、極端に横長の構図の中に鮮やかな赤で西瓜の一切れを描き出し、中に種の黒をリズミカルに散らしポイントとしている。彼のほかの作品、例えば広い画面の中に胡桃を一つ浮かび上がらせた作品などは象徴的な雰囲気を持ち、物の存在することの不思議さをわれわれに感じさせる。

  • 《白の幻想(1)》
    萩原英雄
    1962年
    木版/紙
    85.2x59.5cm

    本作は、裏刷りをし、色を重ねた画面は版画とは思えない重厚な色合いをもっている。萩原は日本の伝統的な版画の刷りを学んだことから数々の工夫を重ねてその作品を作り上げている。1960年からの作品は色彩が美しく、作家が学生時代に専攻した油彩の感触を感じさせる、画面上に残るバレンのすり跡も一定の効果を上げている。木版の面での形態の構成を生かしてその上に顔料やすりで工夫を凝らし、従来の版画作品に見られなかった版画作品を作り上げている。その意味で木版画を現代に蘇らせた作家といえよう。作家の版画家へのスタートは40歳からと遅かったが、1960年の第二回東京国際版画ビエンナーレ展での受賞を皮切りとして、数々の国際的な版画ビエンナーレで受賞して版画家としての地位を確立した。

  • 初年兵哀歌 歩哨
    浜田知明
    1954年
    エッチング、アクアチント/紙
    23.8x16.3cm

    1917 熊本県に生まれる
    1939 東京美術学校油画科を卒業
    1940 召集、中国大陸へ派遣される
    1953 最初の個展(東京、フォルム画廊)
    1956 「第4回ルガノ国際版画展」入賞
    1979 個展(熊本県立美術館、アルベルティーナ国立美術館)
    1980 個展(神奈川県立近代美術館)
    1993 個展(大英博物館日本ギャラリー)
    熊本県在住

    銃口を口にあて、銃の引き金に左足のゆびをあて、まさに死のうとしている、ひとつ星が襟に光る初年兵。美術大学を卒業してすぐに軍隊に召集され中国に送られ、その戦争の遂行目的自体に疑問をいだき、非人間的な軍隊の生活の中で神経をすりへらした作家が死にその救いをもとめたのは当然であった。若い日にモンドリアンとアルプにひかれていたという作者は、白から黒までの階調の中に、単純化すべきところは大胆に省略化し、反面、初年兵のよれよれの服は現実感をもって描き込んでいる。すでに骸骨のように見える初年兵の頬を流れ落ちる一滴の涙は我々に彼の悲しみをひしひしと伝えてくる。この作品が描かれたのが1954年であり作者の実際の戦争体験から10年以上たっているという事実を考える時、作品とするにはそれだけの年月が必要であったのであろうという感慨を我々もいだくのである。

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